メンタルヘルス コラム

2026年09月01日

菅井徹到医師ドクターリレーコラム<読書の秋に考える、自身と組織の「変わり方」 〜『人と組織はなぜ変われないのか』を読んで〜>

<読書の秋に考える、自身と組織の「変わり方」 〜『人と組織はなぜ変われないのか』を読んで〜>

一般財団法人北陸予防医学協会 菅井 徹到 医師

 皆さん、こんにちは。今年の春から赴任しましたAIオタクこと菅井です。よろしくお願いします。
まだまだ暑い日もありますが、暦の上では「読書の秋」ですね。皆さんは最近、どんな本を読まれていますか?私は仕事や自分自身のあり方について考える機会があり、『人と組織はなぜ変われないのか』という本を少しずつ読んでいました。今日は、この本を読んで学んだポイントを、読書感想文のような形でざっくばらんにご紹介したいと思います。

■ 「変わりたいのに、なぜ変われない?」の正体
「新しいスキルを身につけよう」「組織のやり方を変えよう」と決意しても、気がつけば元の状態に戻ってしまっている。皆さんも仕事やプライベートで、そんな経験をしたことがあるのではないでしょうか? この本では、人と組織が変われない大きな理由として、「変革を阻む免疫機能」の存在を挙げています。私たちの心の中には、変化を恐れ、現状を維持しようとする、自分でも気づいていない無意識の力学が働いているのだそうです。筆者は、多くのリーダーによくある間違いは、直面している問題を単なる「技術的な課題」と勘違いしてしまうことだ、と述べています。 例えば、新しいシステムの操作方法を学ぶといった、既存の考え方のまま新しい技術やルールを身につければ解決するものは「技術的な課題」です。しかし、本当に解決しなければならない多くの問題は、自分自身の思考様式や知性そのものを成長させる必要がある「適応を要する課題」であることがあります。自分自身を取り巻く環境の変化やAI・DXの波が押し寄せ、「世界の複雑さ」に自分の「能力(知性)」が追いついていないと感じる時、私たちは単に新しいやり方を覚えるだけではなく、自分自身の考え方そのものを変革していく必要があるのだそうです。

■ 大人になっても「知性」は成長する
 多くの方は、私もそうですが、実際問題大人になってから考え方や価値観を変えるなんて無理でしょ?、と思いがちです。 しかし、この本が前提としているのは、「知性は成人後も向上させられる」ということです。 人間の知性には、大きく分けて3つの発達段階があると言います。すなわち、
 1.環境順応型知性:周囲の期待やルールに忠実に順応する段階の知性。
 2.自己主導型知性:自律的な価値観を持ち、自身の役割を自覚して行動する段階の知性。
 3.自己変容型知性:自分の限界を自覚し、多様な意見を受け入れ、学び続ける段階の知性。
 かつては、指示に忠実な「環境順応型」の社員や、強い信念で引っ張る「自己主導型(キャプテン型)」の上司が良しとされ、それで何とかなった時代もありました。しかし、変化の激しい現代においては、社員1人1人が自律的に考えて行動する「自己主導型」の知性を身につけ、リーダーはさらに柔軟に学び続ける「自己変容型」へと知性を高めていくことが求められているのだそうです。ここで思い出されるのは、日本の武道や茶道等の芸事や学びで通る成長の三つの段階、「守破離」という考え方です。
 1.守:師匠の教えや基本の型を忠実に守る。
 2.破:他のやり方を学び、自分に合う良い点を取り入れる。基本の型を少し崩し、工夫をする。
 3.離:師匠の型や一つの流派から離れる。自分の新しいやり方やオリジナルを生み出す。
上に挙げている3つの知性と、よく相対しているように感じるのは私だけでしょうか。欧米の学者が長年の実践研究の中で得たメソッドが、日本が古来から大切に守り伝えてきた考え方と共通しているというのは非常に興味深いことに思えます。

■ 形だけで終わらせないために
 話がそれましたが、本書では、自分の変化を阻む無意識の思い込み(免疫機能)を可視化する「免疫マップ」という、いわば「思考の地図」を作る作業が紹介されています。そこでは、変えたいと思っている目標、それを阻害する要因、裏の目標、固定化された概念というものを書き出します。変革を妨げている要因やその行動を後押しする表向きは見えていない裏の目標、それを支えている自分や組織の中にある固定化された思い込みや固定概念に目を向け、そのような内面の問題に対処することで、自分自身や組織を変革していこうというアプローチ法です。
 ただ、免疫マップを穴埋めして、わかった気になっただけでは何の意味もありません。 本書では、本当に大切なのは、テクニックに頼ることではなく、「人は何歳になっても変わることができる」という前提に立ち、頭脳(考えること)とハート(感じること)の両方を使って、長い時間をかけて自分と組織を変える痛みと向き合うことだと述べています。

■ 最後に
 この本を読んで、私自身も今の自分の知性がどの段階にあるのか、筆者の言う「知性」を高める意味とは?ということを考える機会になりました。「最近、周りの変化が激しくて仕事が複雑になりすぎているな」と感じることがあれば、それは自身の能力が足りないのではなく、自分自身が成長するサイン(成長痛)なのかもしれません。皆さんもこの秋は少し立ち止まって本を開き、自分自身の思考を振り返る機会にしてもらえればいいなあと思います。

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