『大腸がん検診としての便潜血反応検査の重要性』
北陸予防医学協会 予防医学研究室 下出哲弘
大腸がんは,全長約1.5〜2m程の大腸という管腔臓器に生じる悪性腫瘍です.国立がん研究センターのがん統計によれば,年間の大腸がん死亡数は5 万人を超えており,2023年度の大腸がんの死亡者数は,男女全体で2位(男性:2位,女性:1位)と推計されています1).すなわち,大腸がんは,国民の生命を脅かす重大な疾病の1つであり,早期発見と早期治療が喫緊の課題と言えます.
大腸がんが増加する背景には,食生活の欧米化が強く影響しています.本邦では,大腸がんの発生の危険因子として,加工肉,過度のアルコール摂取,肥満,運動不足が指摘されています.未然に大腸がんの発生を防ぐ対策としては,節酒,運動,適正体重の維持が重要とされ,多量の加工肉や赤身肉の摂取を控えたり,喫煙を避けたり,食物繊維やカルシウムをしっかり摂取することも有用であると考えられています2).
現在,大腸がんを早期発見する手段として,便中に大腸がん由来の血液が混じっていないかを2日間にわたり確かめる便潜血反応試験(fecal immunochemical test: FIT)があり,大腸がんによる死亡率を60〜70%低下させる有用な検査として位置づけられています.2日間に行う2回の検査のうち,1度でも陽性になれば,内視鏡検査による精密検査を行う必要があります.本邦においては,市区町村が主体となり,40歳以上の成人を対象として,FITによる大腸がん検診が対策型検診として実施されています.当健診施設では,職域検診或いは人間ドック・任意型検診として,FITが実施されています.しかしながら,FITが陽性になっても,精密検査としての大腸内視鏡検査を受検しない方も多く,全国的にも精検受診率が低迷していることが問題になっています.こうした背景には,大腸内視鏡検査を行うことが面倒くさいという個人的な理由や,FITに関して,2回のうち1回だけが陽性だから内視鏡検査を受けなくても良いのではないか,検査が陽性とはいっても,記載されている結果の数値が低いから,そこまで心配しなくても良いのではないかという検査に対する誤解や早合点があることも関与しています.恐ろしいことに,昨年のFITが陰性だったのに,今年のFITが陽性で大腸内視鏡検査を受検したところ,いきなり進行大腸がんが見つかることも往々にして起こりえます3).つまり,クリニックや病院での大腸内視鏡検査による経過観察中である期間を除けば,FITの検査を毎年継続し,どういう結果の内容であろうとFITが陽性であれば,なるべく早く大腸内視鏡検査を受検するという意識と姿勢が求められます.加えて,FITは,単に大腸がんを発見するだけでなく,大腸がんの前段階といわれる大腸腺腫(大腸ポリープ)を早期に発見して治療することにより,大腸がんの発生を未然に減らし,結果的に大腸がんの死亡率を低下させている側面もあります.
是非,自分自身の将来を見越して,特に40歳以上の方は,大腸がん検診としてFITを積極的に受検して,もし陽性になれば,大腸内視鏡検査が行える近隣のクリニックや病院を受診しましょう.
<参考文献>
1) 国立がん研究センター がん情報サービス
2) 斎藤豊, 他. 大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン. 日本消化器内視鏡学会誌 2020 Aug; Vol. 62 (8): 1519-1560.
3) 玉山隆章, 他. 便潜血検査の問題点に関する検討 - 総合健診の立場から -.日本消化器がん検診学会雑誌 2008 Sep; Vol. 46 (5): 567-574.